トライアングル・キャスティング 嘘つきは溺愛の始まり
兄が背伸びをしていたとしたら、無意識のうちにそれを強いたのは私だ。父と母が亡くなって以来、兄は私の保護者のように立ち振るまってきたのだから。


車を駐車場に停めると、篤さんは


「機内はその服じゃ寒いかな。これ持ってって。」


と後部座席に置いてあったパーカーをぽん、と手渡した。


「機内? 飛行機乗るんですか?」


「これから沖縄行くんだよ。」


「沖縄!?」


「おー。すげーびっくりしてる。黙ってたかいがあった。」


「何で沖縄なんですか?」


「悪いけど、それも秘密だよ。」


そう言うと篤さんは大きめのサングラスをかける。


「秘密ですか……。

そうやって目を隠すと別人みたいですね。」


しげしげとその顔を見つめると、少しだけ渋い顔になる。


「週刊誌に載るようなことするなって釘を刺されてさ。

アイドルじゃあるまいし、気にしなくて良いとは思うんだけど。」



週刊誌に載るようなことって、……そうか。

私と一緒にいることでそういうことがあるかもしれないんだ。


「一人でも行けますよ? 離れて歩いた方が……」


そう言うと、篤さんは車から降りて助手席側に回り、ドアを開けてくれる。


「淋しいこと言うなって。余計な気を回さないで、一緒に行こう。」


篤さんは私の手を強く握ってくれた。
< 194 / 235 >

この作品をシェア

pagetop