トライアングル・キャスティング 嘘つきは溺愛の始まり
「久しぶりに会ったせいだと思ってたけど、やっぱり今日は瑞希の雰囲気はいつもと違う気がする。

普段より大人っぽいのかな……綺麗で気安く近付きにくい。」


撮影した写真と私を交互に眺める兄。さらっと「綺麗で」と言われると嬉しい反面、反応に困る。


「近付きにくいとか思わないで。」


とだけ返すと、兄は私の照れくささに全く気付くことなく言葉を続ける。


「最初にその姿で怒ってるの見たときから、今日ずっと思ってたんだけど、可愛いくてもう駄目だなって。


その服もよく似合ってる。

正直、肩とか露出して欲しくないんだけど、可愛いから止めてとも言いにくいんだよな。」


そんな兄の言葉にはまだ全然慣れなくて、何の意識もしていないように飛び出す「可愛い」という言葉で私はいちいち動揺してしまう。

でも、私を見て不思議に思う理由は分かった。


「そうだった。今日は私5割増しで盛ってるんだよ。

この服とか靴とか、篤さんが選んでくれたから。しかもお化粧までしてくれて。

私を飾って遊んでるって言ってたけど、凄いよね。プロみたい。」


しばらくの間の後、にっこり笑った兄が言う。


「そういうことか」


その笑顔の意味を、私は多分読み違えた。


「髪も少し前に切ってくれて。上手すぎて美容師さんみたいなんだよ。」
< 221 / 235 >

この作品をシェア

pagetop