トライアングル・キャスティング 嘘つきは溺愛の始まり
「ふーん、髪も。すげえな。

飾って遊ぶ、ね。」


兄にしては乱れた言葉使い。私の髪を一筋持ち上げて、


「あいつ、絶対気付いててわざと黙ってたんだろうな。その首の痕。」


と笑いながら怒った顔で言い、私の頬に何かをべったりと塗った。


「何これ、ベタベタする」


「手が滑った。

オリーブオイルだから肌に悪くは無いだろ。

洗って落としてきたら。ついでに適当に着替えて。」


兄の作り笑いも消えて完全にむっとした顔だ。


「可愛いって言ってくれた直後に手のひらを返すように……着替えとか無いし」


と文句を言っても、


「その格好じゃなきゃ何でもいいよ。

部屋にシャワーあるから、早く」


と、全部取り合ってくれない。兄に背中を押されてその場を後にした。



* * *


二人がその場を去った後、マスターがソファからばさっと起きて、髪を掻きむしった後に疲れた様子で呟く。


「藤堂くん、っていうか二人とも!

酔って寝てると思って油断しすぎなんだよー。やだもーずっと狸寝入りしてないといけないかと思った。

アッツアツな会話を永遠に聞かされる身にもなって!!」


その独り言にはすぐに返事が返ってきた。


「アッツアツって、マスター言い方古すぎ。

でも同感っす。甘すぎて喉カラカラ。藤堂サンってあんな人だったっけ?


でもって、何者だアツシって。気になる。気になるけどこれ以上あのラブいの聞いてたら死ぬかも。」


と、疲弊した二人分のため息が部屋に聞こえた。
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