トライアングル・キャスティング 嘘つきは溺愛の始まり
2 三角関係
翌日、奥村篤がスタジオ入りすると、スタッフはみな黒須拓真の話題で持ちきりだった。


「やばいって。拓真くんの色気すごすぎ!セクシーだよね。」


「あの物憂げな目が格好いいの!ストイックで影がある感じが最高。」


「ほんと、今回の役はハマリ役だよね。主役の篤より目立っちゃうんじゃない?」



そこまで聞いて、篤の形の良い眉毛がつり上がった。機嫌の良い猫のような表情から、仏頂面に変わる。



「拓真、昨日は家に帰ってよっぽどイイコトがあったんだねー。」



篤としては、昨日は拓真に最大限のきっかけを作ったつもりだ。あの生真面目で融通の聞かない堅物の、見え見えの恋心を煽って、焚き付けた。



「あいつ、絶体上手くいったろ。100パーセント俺サマのお陰で。」



拓真の演技が主役の自分を食うと聞けば、もちろん面白くないが、それでも友人の仕事の成功は嬉しくもある。



長年の秘めた恋愛が成就したなら、なおさらめでたいことだ。それが演技に反映されるなんて、良いことづくめではないか。



……でも俺、昨日あいつに殴られそうになったし、怒鳴られたし、全く報われないピエロの役回りだったような。



「なーんか癪だから、あとでプレイの内容でも聞いていじってやろ♪」
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