トライアングル・キャスティング 嘘つきは溺愛の始まり
『……んっ』



声を出してはいけないんだったと思い出して、漏れそうになる声を必死に押し留める。



熱い唇が割って入るように触れ、篤さんの舌が口の中のトリュフを舐める。



篤さんの舌も唇も、チョコレートの味で。



そういえば、さっきたくさん食べたと言ってたっけ。



もう、私の口の中から食べられているのか、篤さんにチョコを食べさせられているのか、分からない。



その間ずっと、ウエストの辺りを強く引き寄せられて体ごと絡めとられてしまったかのようだった。



それは、有無を言わさないような圧倒的な陶酔感で。



怖くて逃げ出したくなるのに、もう一人では立つことすら難しい……



そう思った時、やっと撮影が終わった。



「カット」の声で唇は離れたけれど、篤さんがまだ真顔で見つめるので、苦しさは却って増すばかりだ。



「……………分かった?……瑞希ちゃん」



キスの余韻なのか熱の籠った眼差しのまま、篤さんが問いかける。



「…ん………何を…………ですか…………?」



でも、答えを聞く前に篤さんはディレクターの人に呼ばれて行ってしまった。
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