トライアングル・キャスティング 嘘つきは溺愛の始まり
浅い呼吸を繰り返しながら、何とか気持ちを落ち着けようと努める。


撮影の時、篤さんの狂おしい感情が溶け込んでくるようで怖かった。


私が私でなくなるようで、怖かった。


全部演技だと自分に言い聞かせて、かき乱される心を何とか保っていたのに。


本物の気持ちを向けられていたと知ると、さっきのすべての感覚が違う意味を持って襲いかかってくる。


『私の心は、罪で汚れています。

どうかその唇で、私の罪を清めてください。』


『恋は、罪深きもの。

私と共犯者になっていただけますか?』



……



これが篤さんの本心なら、なんて苦しそうなんだろう。


「聞いてもいいですか?

『恋は罪深きもの』の意味。」



でも、篤さんは淋しげな顔をするばかりで答えはくれない。


「今に分かる。

ほら、家着いたよ。」



帰り際、篤さんは私の頭を撫でようとして、


「今日は触らないって約束だったっけ。」


と、律儀に手を離しつつ静かな笑顔のまま言った。



「だから、もう君の恋は応援できないんだ。ごめんね。」
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