トライアングル・キャスティング 嘘つきは溺愛の始まり
演技じゃないというのはどういうことなんだろう。


その理由を考えて、まさかという思いと同時に息苦しい感覚に包まれる。



赤信号で車が停車し、篤さんが助手席の私に目を合わせた。



「設定がロミオとジュリエットだから、芝居がかった口調になったけど、


台詞のように聞こえた言葉も


台本みたいな行動も


全部、俺の本心と何ら変わらない。



黒須瑞希さん、……君が好きなんだ。」



凪いだ瞳にまっすぐ見つめられ、射竦められるように動けなくなった。


「…………私……」


言いかけた時に信号が変わった。運転に戻る篤さんの横顔は静かで、いつも通りの笑みを浮かべたまま。


「撮影で君が逃げられないのわかってたから、さっきの俺は卑怯だったかもしれないけど、謝る気はないよ。」
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