トライアングル・キャスティング 嘘つきは溺愛の始まり
「そんなことを思うのも、きっと今だけだ。


そのうち俺なんか目に入らなくなるよ。」


自分は瑞希の諦め方を知らないから、俺の言葉はただのまやかしだ。鈍い刃物で切りつけるように何度も瑞希の気持ちを傷つけているんだろう。


「お兄ちゃんは私を大切って言ってくれるけど、


大事に、腫れ物みたいに扱われるより


どうせ叶わない気持ちなら、嘘でも何でも私はただ触れて欲しかったの。


ごめんね、困らせて。


明日には普段の私に戻るから心配しないで。


私、自分の部屋で寝るね。」


瑞希の言葉に胸を締め付けられて、衝動的に手をとった。


「嫌だ。行かせたくない。


独りで泣かせたくない。」


そのまま手を引いてベッドに連れ戻し、背を向けた瑞希をできるだけそっと抱き締めた。


「ねぇ、お兄ちゃん。


今、私にどれだけ酷いことをしてるか知ってる?」


「知ってる。


俺は身勝手な兄なんだ。」


そのまま彼女の嗚咽がやがて寝息に変わるまで、抱き締めていた。


部屋の窓から薄い月明かりが射し込んで、瑞希の姿が白く浮かんで見えた。
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