オオカミ社長は恋で乱れる
「彼女に連絡されたのですか?」

「ああ、会いに行った」

「・・・会いに・・行かれたのですか?どちらまで?」

「家だ」

「は?」

その答えに『まさか!』という思いが走り、思わず目をむいてしまった。

あの西条優貴が女性の自宅を訪ねただなんて。

言葉を失っている自分を西条は平然と鼻で笑って見せた。

「そんなに驚くことでもないだろう」

「いえ、まさか会いに行かれるとは思いませんでした。しかし彼女はシングルマザーですか・・・」

「ああ」

「それで、どうされたのですか?」

「何が」

「会いに行かれてです。お話しされて来ただけですか?」

「そうだ。怪我のことも気になっていたし、見に行ってすぐ帰った」

「・・そうですか」

信じられなかった。彼の言う一つ一つが。

初対面で気になって子持ちだと知り落胆して、それでもその日の夜にわざわざ怪我の様子を見に自宅まで行った?

それでシングルマザーで結婚していないと知ってこれだけの機嫌の良さを見せるとは。

この業界の誰もが彼の笑顔など見た事がないというのに、あの清水絵莉という女性にどれだけの魅力を感じたのか彼は嬉しそうに彼女のことを話す。

確かに彼女は美人の部類に入る顔立ちをしていた。

薄化粧でも充分に人目を惹く瞳を持ち、口紅を付けなくても赤みを帯びた唇は印象的だった。

そして背中までの長さのある髪の毛は、サラサラと流れるような繊細さをもっていた。

でもだからといって彼女だけが西条にとってそれだけの感情を持たせた事が信じられなかった。

多くのパーティや会合などでもっと華やかな美人に接したことは数えられないくらいあったというのに、彼は誰にも女性としての興味を持たなかった。

それに20代後半から会長より沢山の令嬢とのお見合い話をを持ちかけられたが、写真ひとつ見ようともしなかった。

全く相手にしない息子に最初は会長も怒っていたけれど、今ではもう諦めたのかお見合い話も持ちかけてくることはなくなった。

34歳という若さで持っている経済力と端正な容姿を女性にひけらかすことなく、只々仕事のみに興味を持ったこの男が初めて見せた顔。

これが西条にとっていい選択になるのかを、秘書として佐賀は思案した。
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