極上社長と結婚恋愛
 

季節は寒い冬の終わり。

街路樹や花壇に緑が芽吹くのはまだ先で、アスファルトやビルの外壁の暗い色ばかりが目に付く。
そんな色褪せたような街の中、窓から見える花で溢れた店内は色鮮やかに浮かび上がり、まるで額縁の中の一枚の絵のようだった。

その中で働くひとりの女性。

背中まである髪を後ろでひとつにまとめ、白いシャツにグリーンのエプロン。
その上に黒のカーディガンを羽織っただけのシンプルな格好なのに、色鮮やかな花よりも彼女に目を奪われる。

花に触れるときのその表情が、とても幸せそうだったから。

熱風と乾燥に弱い花を扱う店内は、きっと暖房も最小限にしているんだろう。
柔らかそうな頬と鼻の頭が微かに赤らみ、冷たい水でかじかんだ指先を時折息で温める。

まだ寒く水も冷たいこの時期に、花屋の仕事はきっと想像以上に過酷だろう。
けれど彼女は決して手を抜くことなく、愛情をこめて花の世話をしているように見えた。


 
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