ハイスペック男子の憂鬱な恋愛事情
「というか神山くん、そもそも優李が今どこにいるか知ってる?」

「見当はついてます」


アイツがこのタイミングで6日間も、意味もない行動をする訳がない。

優李の計算高さにはもう慣れている。

一線を超えたあの翌朝、出社する為にシャワーを浴びて戻った俺に、アイツはベタな上目遣いであり得ないおねだりをした。

「今日は一日中、彗大と一緒にいたい。……ダメ?」

それがなければ名残り惜しさを噛み締め出社していたが、この破壊力にそんな理性が残る訳もなく。

「お前……それ、ズリーわ」

コレが何らかの計算だと分かっていながら人生初のズル休みをし、お互いの体力が底を尽きるまで溺れあった。

あんなに濃厚に蜜な睦み合いというのは未だかつて初めてで。

なんだか圧縮をかけるような意図的な濃さに、ふと、気付いた。

何かを、試してる……?

そういや昨日からずっと、こいつの目は“社優李”じゃない。

俺しか見ていない。
色を、魅ていない。

「ーー優李」

一瞬だけ、ビクリと反応を示したカラダ。

今の声は、優李がいつも一番悶えるなり色に夢中になるなりする音だから、極力ここぞと言う時にしか使わないよう心がけている“優李の弱い声”だ。

瞼をギュッと瞑って、何かを堪えてから眼を開く。

「彗大、10秒後。……もう一回、呼んで?」

この時、優李が何をしているのか理解した。
こいつは自分の眼と耳をコントロールしようとしている。

それから置き手紙を残して姿を消すまでの圧縮した2日間で、明らかな変化を見た。

重い枷が外れていくような、憑き物が剥がれ落ちていくような、それと比例して、徐々に社優李の画家ゲージが溜まるような。

憶測でモノは語らない主義だが、あの詐欺師の話を聞いた後の今なら、腑に落ちる。

多分あいつの“描くスイッチ”は、色に集中出来るメンタルが最も高い、分かりやすく言えば、自分の中で画の存在がナンバーワンの時だ。

多分詐欺師への相談で、今回あいつもその事に気付いたんだろう。

俺への気持ちや、残像する“俺の色”が邪魔して、他の色に集中するメンタルが保持しきれず描けないと。

だから、一度色を抜きにした俺との時間に専念して、色は色、俺は俺、と。
こんがらがった複雑な回路をリセットする試みを行なった。

優李風に言うなら、モヤモヤ悩むなら、行き切るまでやっちまえ!突進だ!的な。

要は、あいつは単純バカで、単純バカなりに克服できたということだ。
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