ハイスペック男子の憂鬱な恋愛事情
そうとなれば、俺も黙ってリハビリの手伝いだけで満足できる筈がない。

初対面の日にあいつが言っていたことを、実は実現出来ないものかとずっと考えていた。

“えー繋ぎ合わせぇー?それなら、どかっと巨大な一枚画を描いて空間いっぱいに貼り付けたい!”


「……あの特殊な寸法の布壁紙、いつ発注してたの?」

「ハロウィン前くらいですかね」


最初、この気分屋には無理だろうと決めつけていた話も、付きっきりで側にいる内に、画への飽くなき執着心に、口だけではなかったのだと少し見直して。

……まぁ、予算もまだ余ってるし。

つい(喜ぶだろうと思い)独断で、ブースの形状に寸法を合わせた一枚の布壁紙を購入してしまった。

その後すぐ、描けない諸々の事情により出せず終いになっていた、お蔵入り寸前だった素材。

社優李が復活しそうな予感に、優李が消えた日、ヘボ坂上を説得し、急遽アトリエに送ったのだ。


「あいつ、進み具合はどんなもんですか」


俺が今回オーナーに提示したのは、繁忙期で皆が忙殺されるこの時期の、コラボ企画の大幅な変更。

繋ぎ合わせて巨大空間を作る当初の演出計画は、その空間までに連なるロード、ミニブース、オブジェに規模を縮小。

床に関しては、優李の色を最大限にデジタルコピーした壁紙を使用。

そしてメイン空間には、優李が今取り掛かっているだろう巨大布壁紙の一枚絵に変更ーー。

サラッと簡単に言ってみてはいるが、規模縮小に伴って、サイズ変更によるバランスからのレイアウト変更、そして床部分に関して、あの優李の色をウチの技術でどこまで再現出来るかを考えると、この納期は殺人級。

加えてメイン空間から俺らが外れるとなると、コラボと銘打てるかも正直、厳しいところ。

優李にしたって、巨大過ぎるあの空間を埋め尽くす一枚絵は、調子が良くても恐らくギリギリデッドラインでの完成になるだろう。


「あー悔しい!なんでこんな面白いことやろうとしちゃうかなー。可愛げがないよー神山くん!」

イジメ甲斐がない!と今度はハッキリ本音を口に出して、オーナーは俺の持ってきた企画変更の契約書面に、心底上機嫌にサインをする。


はぁー。悔しいのは俺の方だ。

恋人になっても何一つ変わらない優李の行動。

俺には何一つ事情を話さないで当然のように色仕掛けしてくるわ、1人で解決したかと思えば書き置きひとつで消えるわ連絡手段は置いていくわ。

俺の機転が無いなら無いで、多分全然問題なく設営前の壁に直接描きに行ってただろうし。

(まぁ直接壁に描けば、それはそれで弁償問題だし、こうして書面上に契約変更のサインしなけりゃコラボ企画の契約違反で違約金とか発生するんだろうが、
このオーナーならあの手この手で全て不問にしてしまうだろうしな。)


その癖、オーナーにはちゃんと休暇申請だすわ、賢く帰巣してるわ、相変わらず天才的な画を描いてるんだろう。

お互い絶大な相思相愛の信頼でガチで妬くわ。


「オーナーにこれ以上差を付けられるワケにはいかないんで」

「ふーん、ま、良い心がけじゃない。黙ってついてくれば?」

くそー。まだまだ余裕だな、魔オーナーめ。
いつか絶対、ひとつくらいは魔オーナー様を上回ってやるからな!
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