ハイスペック男子の憂鬱な恋愛事情
「優李ー。神山くん、もう迎えにくるわよー?」


12月22日。本日、待ちに待ったコラボ企画作品の搬入作業完了日。

2日前、ギリギリで私の作品が完成し、ソッコーで搬入と設営作業に入ったので、しょうこちゃんや向こうの事務所側は超絶慌ただしかったようだけど。

「優李ー?」


わたし個人は実質この2日間、丸々の待機日だった。

いつもなら、待機の間は絶好の画日和だと、画にどっぷり没頭しちゃうんだけど。

「ぅぅうっ、ちょっと待ってー」

なんだか今回は、作品に対する思い入れは強いわ、彗大の反応が気になって仕方ないわ、何も手に付かない、ひたすらそわそわするもどかしい時間を過ごしていた。

「え。ちょっと優李、床に座り込んで何……アンタ、アトリエまできてまだやってたの?」

「だってぇ!髪!巻いても巻いてもすぐにダレてくるんだもんー!」


久々の外出だから、と言うのは建前で、本音は、ようやく彗大に会える日だから。

お互い作品に集中してた上、設営も彗大がメインで仕切ってたから、本気で丸一ヶ月間会っていない。

一ヶ月ぶりって。超長過ぎ。

でも、いざ会うとなるととても緊張する。(ややこしいな乙女心って。)

気分転換20パーセント、少しでも可愛いと思って貰うため80パーセントのメンタル配分で、かれこれ数時間、コッソリ持ち込んだヘアアイロンでずっと巻き髪を整えているんだけれど!

自分の画以外の不器用さが憎い。
思い通りどころかびっくりするほどまとまらない。仕上がらない。

こんなことなら、気合い入れすぎでしょーとか恥ずかしがらずに、美容院でサクッとセットして貰えば良かったー!


「スタイリング剤つけすぎ。コテに絡める一回の毛束多すぎ」

「わぁ!彗大!」

嘘でしょ!いつの間に!

しょうこちゃんの後ろで、一ヶ月ぶりの彗大が呆れたように覗き込んでいる。

完成には程遠い、むしろ一番無様な姿を見られた!

わたしが凹んでテンパっている間にしょうこちゃんへの挨拶を済ませ、スタスタと彗大が寄ってくる。

「貸してみろ」

「え?え?!」

「お前に任せてたら日が暮れる」


わたしのコテを奪って、彗大が髪に触れてくる。

わ、わ、彗大の手だ。声が近い。彗大のにおいがする。

顔が、熱い。

下を向いて大人しくなるわたしの耳に、ごゆっくり、というしょうこちゃんの楽しそうな声が聞こえて、ヒール音が遠のいていった。



「はぁー。魔オーナーの機嫌がよくて助かった」

「へ?」

「コッチの話」

マオーナー?……まけぃた、みたいな?
魔王ナー……と、負けぃた、みたいな?

同じあだ名でラスボスとモブキャラくらいの差がある2人の関係性に小さくウケる。

そういえばこの一ヶ月で、しょうこちゃんの醸し出す空気が少し緩くなった気がするなぁ。


彗大のいう機嫌とそこがリンクするのかはわからないけど、別の話を振られて、少しだけ熱が落ち着いてくる。
< 130 / 144 >

この作品をシェア

pagetop