ハイスペック男子の憂鬱な恋愛事情
燃えるような西日が差し込み、アトリエ内がコイツの画とゆっくり溶け合うような、天然の美しさに満たされる。

9日目、俺はいつもよりも遥かに遅い、18時過ぎにこのアトリエに足を踏み入れていた。

「まけぃたマジで待ちくたびれた!」

「発声練習かよ」

この美しさを前に、なんて残念なやりとりだと心底思う。

“アメンボ赤いなアイウエオ”みたいに文句を言われて、ついそのまま突っ込むと、「発声はまけぃたの仕事でしょ!」と更にムクれられる。

コイツは生み出すことには興味があっても、生み出されたものを愛でることには興味がないのだろうか。


「仕方ねーだろ。溜まった業務こなしてたんだよ」

本当なら、朝一番で事務所に出勤し、基本業務や諸々のことをザッと片して、通常通りの昼前にはここに到着できていた。

だが、なんだか答えの出ないモヤモヤが腹の底で疼いて事務所から何となく動けず、
今出来る年内業務と他のクライアントデザインを仕上げたところで仕事がなくなり、仕方なくここへ来た次第だ。


「昨日丸一日来なかったクセに」

「昼頃来たから」

「なんで起こしてくんなかったの」

「お前が爆睡で仕事にならねーってオーナーに言われて事務所帰ったんだよ」

内容をかい摘んではいるが、概ねは嘘ではない。

まぁ本当は、そうは言われたものの様子を見にアトリエまでは行った。

そしたら、シャワーを浴びろとオーナーに言われて仕方なく浴びました!とテロップの付いた髪びしょ濡れのコイツが床で分かりやすく力尽きた状態で爆睡していたから、近くに転がってたタオルでわざわざ頭を拭いてやった後、仮眠室のベットまで仕方なく運んで寝かせて帰った。

……なんて、甲斐甲斐しく世話した経緯だけでも甚だしいのに、シャワー上がりの髪やカラダの匂いだとか、ズボンは履いてくれていたが、ちょいちょい服の隙間から垣間見える絶妙な絶対領域に、ハニートラップにかかる馬鹿な男の気持ちを理解して焦って帰った。

なんて、不甲斐ない感情を抱えた記録まで言えるか。

ダメだ。昨日オーナーに言われた言葉のせいだ。

“女の私じゃ引き出せなかったイロ部分を、この短期間で割と理想的に抽出してくれてるみたいだから”

「…………。」


あの言い方じゃ、イロってのは色恋のイロ、だよな?

つまりこの女は、俺に恋情を抱いてるって、オーナーはそう言いたいのか?


「まけぃた無能ー。昨日事務所帰ったんなら昨日で業務終わらせてきなよー」


いや、ないだろ。
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