ハイスペック男子の憂鬱な恋愛事情
どれくらいの間、彼の唇を受け入れていたんだろうか。
重なっていた唇と手がゆっくり離れて。
それでも動けないでいるわたしの上にスケッチブックが静かに置かれる。
なんとか動く口が、彼を呼ぼうとして
「……、ま」
「彗大」
呼ぶ前に呼び方を訂正される。
「けい、た」
初めて呼ぶ彼の名前に「うん」と、彼の目が余りに嬉しそうにほころぶから。
「……。ま彗大」
なんとなくギクリとして、咄嗟に呼べなくなった。
「日、暮れんの早くなったよな」
彼の声が、いつもよりわたしに寄り添っていた。
わたしはそれを合図だと受け取ることにして、今から彼に付け込もうとしている。
さっきから、与えられた余韻で視界がチカチカしながらも、眼が色の情報を解析している。
わたしは、色のことで頭がいっぱいで。
もう一度、魅たくて。魅たくて。
描きたくて。描きたくて。描きたくて。
さっき気付いたばかりの彼の気持ちを、早速利用することばかり考えている。
「描きたいの」
「知ってる」
これだから、ハイスペックは困る。
わたしの考えが、もう読めているんだもの。
知っていて、わたしに騙されるフリをしてくれるんだもの。
「彗大、今の、もう一回魅たい」
さっきまともに呼べなかった名前が、今はこんなに綺麗に呼べる。
「彗大、はやく」
もう一度名を呼び、考えていることはほぼ色のことと、ほんの僅かな罪悪感。
でも、今ははやく魅たいの。
「口、開けて」
彗大の気持ちを踏みにじっても、魅たかったの。
重なっていた唇と手がゆっくり離れて。
それでも動けないでいるわたしの上にスケッチブックが静かに置かれる。
なんとか動く口が、彼を呼ぼうとして
「……、ま」
「彗大」
呼ぶ前に呼び方を訂正される。
「けい、た」
初めて呼ぶ彼の名前に「うん」と、彼の目が余りに嬉しそうにほころぶから。
「……。ま彗大」
なんとなくギクリとして、咄嗟に呼べなくなった。
「日、暮れんの早くなったよな」
彼の声が、いつもよりわたしに寄り添っていた。
わたしはそれを合図だと受け取ることにして、今から彼に付け込もうとしている。
さっきから、与えられた余韻で視界がチカチカしながらも、眼が色の情報を解析している。
わたしは、色のことで頭がいっぱいで。
もう一度、魅たくて。魅たくて。
描きたくて。描きたくて。描きたくて。
さっき気付いたばかりの彼の気持ちを、早速利用することばかり考えている。
「描きたいの」
「知ってる」
これだから、ハイスペックは困る。
わたしの考えが、もう読めているんだもの。
知っていて、わたしに騙されるフリをしてくれるんだもの。
「彗大、今の、もう一回魅たい」
さっきまともに呼べなかった名前が、今はこんなに綺麗に呼べる。
「彗大、はやく」
もう一度名を呼び、考えていることはほぼ色のことと、ほんの僅かな罪悪感。
でも、今ははやく魅たいの。
「口、開けて」
彗大の気持ちを踏みにじっても、魅たかったの。