鬼部長に溺愛されてます

「人事部長だった頃、毎年うちの総務部と合同だったのに、一度も見たことがなかったから」

「あの頃は他の社員と仲良くすること自体、避けていたからね。あまり近づき過ぎると客観的に見られなくなる。人事からは離れたし、今年は麻耶をひとりで行かせるのは心配だったから」

「心配……?」


桐島さんでも、そんな風に思ってくれるんだ。
――もしかして。


「おかしいと思ったんです。流通戦略部と総務部が合同なんて」

「俺が手を回した」


サラリと言ってのける。
別の部署と合同で行く社員旅行ならば、それなりにつながりのある部署を選ぶのが主流の中、普段の職務では、ほとんど関わりのない私たちが一緒になるなんて不思議に思っていたのだ。総務部は、たいてい人事部と合同が常だったから。


「さ、着いたぞ」


旅館の最深部。
私たちが足を止めたのは、貸切露天風呂と札の掛けられた場所だった。

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