鬼部長に溺愛されてます
「珍しいわね、健人が進んで肉を食べたがるなんて。……もしかして、麻耶ちゃんの好物とか?」
「えっ……私の?」
驚いて桐島部長の顔を見る。
確かに、私の好きな食べ物は鶏肉だ。でも、桐島部長はそんな情報どこで知ったんだろう。
私が不思議がっていると、「受け持った新入社員のプロフィールくらい覚えていて当然だ」と、彼が顔色ひとつ変えずに淡々と答える。
そういえば研修のときに新入社員同士の交流のためにと、趣味や特技の他に好物などのプロフィールを書かされた記憶はある。
その情報を今この場で引き出せる桐島部長に感心すると同時に、私の些細なことまで覚えていてくれたことに嬉しさが込み上げた。
やっぱりそうだ。部長が冷徹非道なんて、みんなの勝手な思い込みなんだ。会社の人たちは、彼の本当の姿を知らないだけ。
「桐島部長、ひとつ質問してもいいですか?」
部長が「ああ」とうなずく。
「本当は優しいのに、どうして会社では冷たい人間を演じているんですか?」