鬼部長に溺愛されてます
「部長……」
好きなんです。
勢いに任せて喉元まで出てきた言葉は、やっぱり土壇場で踏みとどまってしまった。
その言葉を発することで、見せてくれたことのない穏やかな笑みを失うのが怖いから。
「ここ、痕がついてるぞ」
意表をついて部長が私の頬に触れてクスッと笑うものだから、再びドキンと跳ね上がった心臓が今にも悲鳴を上げそうになる。
手の届かない人だからこそ、触れてみたくなる。言葉で伝えられない人だからこそ、指先で想いを伝えたい。
止められない衝動に駆られて、頬に触れている部長の手に勢いで自分の手を重ねてしまった。
私のその行動にも、部長は変わらぬ笑みを浮かべている。
もしかして受け入れてくれているの?
想いが通じ合っているの……?
そう感じずにはいられない。
緊張しながらもどこか心地良い空気を破ったのは桐島部長だった。
「長居してすまなかったな」
そう言いながら立ち上がる。
「……いえ。帰れそうですか?」
「ああ、水原のおかげでだいぶいい」
よかった……。
ホッと胸を撫で下ろす。
玄関でいいという部長をなんとか言い負かし、予め呼んでおいたタクシーに乗り込む彼を見送ったのだった。