鬼部長に溺愛されてます

◇◇◇

「……はら、……おい、水原」


誰かが私を呼んでいる。
柔らかい真綿に包まれているような感覚の中に私はいた。
右肩に優しい重みを感じる。


「水原……」


しっとりとした低いその声が、私の胸の奥深くを震わせる。

この声は……。

夢の狭間からゆるやかに戻ってくる意識の途中で、私はハッとして目を開けた。
慌てて身体を起こし体勢を整えたところで、そこが車の中だと気がつく。
あろうことか私ときたら、桐島部長の肩にもたれて眠っていたのだ。


「――す、すみません!」


慌てて頭を下げる。恥ずかしくて顔も見られない。
片想いをしている相手の前で眠れるとは、私はよっぽど面の皮が厚いみたいだ。
お酒に強くないから、せめてカクテルのせいだと思いたい。
それに、せっかくの貴重な時間だったのに眠ってしまうとは、私はなんてもったいないことをしてしまったの。

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