鬼部長に溺愛されてます

「着いたぞ」


弾かれたように窓の外を見てみれば、そこは桐島部長の言うように私のマンションの前だった。
桐島部長が先に後部座席から降り立ち、私を降ろしてくれた。


「今夜は本当にありがとうございました。それから私からお誘いしたのにお酒もご馳走になった上、送っていただいてしまって……」

「いや。それじゃ、おやすみ」


恐縮する私を気にかけるわけでもなく、あっさりとした挨拶で締めくくり、桐島部長は再びタクシーに乗って去っていった。

右肩になんとなく残る温もりに左手で振れる。

桐島部長が抱いていてくれたの……?
……そんなわけないよね。

頭を振って邪心を追い払いながら自分の部屋にたどり着くと、まるでタイミングをはかったかのようにスマホが着信音を響かせる。それは誠吾からの電話だった。

彼は私が出るなり『麻耶、ごめん! 悪かった!』と大きな声で謝る。
電話口の向こうでは、ミオリも同様に『ごめんね』と言っているのが聞こえた。
一瞬なんのことかと思ったのは、今の今まで桐島部長と一緒だったせいだろう。

< 64 / 132 >

この作品をシェア

pagetop