【完】姐さん!!
「彼氏とかいねえの?」
撫でられた時にちょっと乱れた髪を手ぐしで直していたら、唐突な質問。
びっくりして、きょとんとしてしまった。
「え、い、ない……かな?」
衣沙との関係は恋人ってことになってるけど。
なるせはそれが嘘だって知ってるし、衣那くんも嘘だって知ってるし、わたしの気持ちも知ってる。
「まじ? こんなかわいいのに?」
「身内贔屓しすぎだよ、流くん」
昔からわたしたちに甘いんだから、と。
苦笑しながら、ロックを解除した流くんの車の助手席に乗る。……あ、自然と乗っちゃったけどわたしが助手席でよかったんだろうか。
「いや、衣沙となるせも絶対そう思ってるって。
……もったいないなぁ。俺と付き合う?」
「はい……!?」
え、いまなんて言った? 俺と付き合う?
……いやいや!流くんこそかっこいいんだから彼女いるでしょ!?
「俺フリーだし。
ああでも、付き合ったら遠距離だなー」
そんなに遠くないけど、と。
言いつつシートベルトをとめる彼を、思わず呆然と見つめる。付き合うにしては軽すぎるよ、流くん。
「流兄、姉ちゃんで遊ばないの。
姉ちゃんも、冗談なんだから軽く受け流して」
うしろからなるせに怒られて、思わず「ごめんなさい」と謝ってしまう。
流くんの「本気なんだけどなあ」って言葉にドキッとしたけれど、聞こえなかったフリをした。