【完】姐さん!!



「それになるみ、彼氏いらないだろ?」



ベッドを取られてしまったから、仕方なく床に座る。

そんなわたしをちらりと見た衣沙の言葉がどうにも切実で、なんだか喉の奥が締まるような思いがした。



「……衣沙だって彼女いらないくせに」



「だから、だよ〜」



……知ってる。

そうじゃなきゃ、わたしは「なるみのこと彼女ってことにしていい?」なんていう彼のふざけた発言を呑んだりはしなかった。



「……ねえ、衣沙」



そばに寄ると、当たり前みたいに頭を撫でられる。

その手が頬に触れて、無意識に息を詰めた。……この瞬間はいつも、たまらなく苦しい。




「せっかくの休みで予定もないんだし……

霧夏に、顔出しに行けるでしょ?」



「……そうだねえ」



「ひさびさに、一緒に行こう。

……入学おめでとうって、言わなきゃ」



普段は制服のシャツで見えない首元。

今日は私服だからかネックレスのチェーンが覗いていて、同じものがわたしの胸元で揺れている。



わたしの瞳を覗く、漆黒の瞳。

蛍光灯の光を受けて薄く透けているせいか、とても深く見えて。やっぱり苦しかった。



「……ああ。行こうか」



するりと指を絡ませられて、熱を共有する。

それがほどけないようにするためになら、わたしは。──嘘なんて、いくらでも。



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