【完】姐さん!!
わたしと衣沙の関係は、いびつだ。
たまに衣沙が頬や手の甲や指なんかにキスしてくることがあるけれど、くちびるには絶対触れない。そして当然、それ以上のことも無い。
衣沙がさっき「好きな男がいる」とわたしの話をしたけど、彼は相手をちゃんと知ってる。
衣沙の、8個年上のお兄ちゃん。
目黒 衣那(めぐろ いな)くん。
わたしの初恋の人で、それがあったから、わたしと衣沙の関係は今も続いてる。
そして、衣沙の好きな人。
それは衣那くんが中3のときに付き合った、ふたつ年下の女の子で、風見 満月(かざみ まひな)ちゃん。
満月って書いて"まひな"と読むかわいい女の子。
衣那くんと満月ちゃんは、はじめて付き合った時から一度も別れていない。
だから、もう付き合って10年近い。
そんなふたりの間に、わたしや衣沙が割って入ることなんか、当然できなくて。
そういう行き場の無い気持ちを吐き出す場所としての繋がりしか持てないわたしたちにとって、"腐れ縁"というのは都合のいい言葉だった。
都合が良くて、確実に的を得てる。
「せっかく来たのに、
あれじゃ部屋から出てきそうにないわね」
「まあ、
入学式行ってる奴らは午後からしか来ないんで、」
「うん。午後になったら部屋から連れ出すわ」
"なるみは俺の"。
衣沙がそう言うのは、お互いがお互いのことしか慰められないのに、わたしが心移りすると困るから。
何よりもわたしが離れることに、衣沙は不安がってる。
だから、衣沙から離れられない。
「そういえば、姐さん。
先代で、衣沙さんのお兄さんの衣那さんいるじゃないですか。……噂でちょっと聞いたんですけど、結婚するって、本当なんですか?」
そんなの言い訳だって、自分が一番知ってるけど。