【完】姐さん!!
俺には俺の、兄貴には兄貴のプライベートな事情がある。
でもそれは8つ歳が離れてるせいであって、必然的なもの。これだけ歳が離れてることを考えたら、むしろ仲は良いほうだと思う。
「衣沙」
「……なに?」
まだ床に落ちていた紙テープの残りを拾っている俺に、声をかけてくる兄貴。
返事だけで振り返らずにいたら、自分から俺のことを呼んだくせに黙るから、一応振り返る。
「なに?って聞いてんだけど」
「なるみのこと、幸せにしてあげなよ?」
……なんだそれ。
言われなくたって、と。言いかけたけどその表情が冗談を言っているようには見えなかったから、思わず言葉をのみこんだ。
「衣沙が本当になるみのこと想ってるのは、実家出て暮らしてる俺でも、よくわかってるよ。
でも女の子は、俺らが思ってるのとは違うところで強がろうとするから」
それを聞いて、なるみが兄貴を好きだって言い張っていたことを思い出す。
プライドとか独占欲とか、そんなので占めてた俺とは違って、あれはなるみの強がりだった。
「もちろんしあわせって言ってくれるのはうれしいんだけど。
鵜呑みにしてるだけじゃダメだよってこと」
「……満月ちゃんと喧嘩でもした?」
「喧嘩したっていうか……
今日の朝、ちょっと泣かせた。"わたしのこと全然わかってない"ってさ」
ちょっとマリッジブルーに陥ってるみたい、と。
俺を安心させるようにつぶやいてはみせたものの、さっきなるせがいた時とは違って、表情にわかりやすく翳りが見えた。
……だから、帰らずにここにいんのか。