切ない春も、君となら。
そんなある日のことだった。

お昼を少し回った頃、数学の参考書を買い求めに近所の本屋まで向かった。

買い物を終えて、店の前の交差点で信号機が青に変わるのを待っていると、私の隣に同い年くらいの女の子が並んだ。

何となく顔を見上げると……。


「朔、ちゃん?」

そこにいたのは、間違いない。朔ちゃんだ。
少し髪が伸びていたけれど、中学時代と雰囲気はあまり変わっていない。


朔ちゃんも私に振り向き、だけど驚いた様な顔で固まるのみで、何も答えない。


無理もないかもしれない。私が莉菜達とつるむ様になってからは、朔ちゃんとは一度も口をきかず、そのまま今に至るのだから。



「朔、友達?」

朔ちゃんの隣にいた女の子が、彼女にそう問い掛ける。

見たことのない子だった。高校のお友達だろうか。


「……知らない」

朔ちゃんはそう答えた。


「え? でも今この人、朔に話し掛けて……」

「知らないよ。私にこんな派手な知り合いいる訳ないじゃん……」

朔ちゃんは私の顔を見ようともせず、隣にいる友達にそう伝える。

信号が青に変わり、朔ちゃん達は横断歩道を渡っていく。


……私は、その場から動けずに立ち尽くしてしまっていた。
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