恋におちる音が聞こえたら

五話「怯えた子犬」






五話「怯えた子犬」







 彼は近くで見るとモデルのように整った顔をしていた。凛々しい眉に目は切れ長、すっと通った鼻梁。頭は日本人宜しく清潔感のある黒髪で、うなじで切り揃えられている。

 綺麗な顔をしてる人を見るとなぜか警戒心を煽られる。これはあたしの勝手な理屈だけど、どうやら今回は当たったみたい。……すでに手遅れだけど。



「……ッ」



 “こわい”というより、“腹が立った”。いきなり保健室に駆け込んできたと思ったら、人を捕まえて二人一緒にこんな狭い場所にうずくまって。

 何をするのかと焦ったものの、こいつは扉のほうを睨んだまま動かないし。まるで何かから身を潜めてるみたいに。いや、本当に誰かから逃げてきたのかも。



「「…………」」



 ……あーーもうなんなのっっ!!!! なんで見ず知らずの男のかくれんぼに付き合わなきゃいけないの?!



「ちょっといー加減にッ……んむぐっ?!?!」



 してよ、といい終える前に、彼はあたしの口にその大きな手のひらを押さえつけた。そしてそのきれいな顔に人をバカにしたようなあの憎たらしい笑みを乗せ、腕の中にいるあたしを見下ろす。



「……お前みたいな餓鬼、何もしねえよ」



「…………」



 ぷつん。そのとき、あたしの中で何かが切れた。




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