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彼との日々のはじまり
誘拐された私は縛られたり、暴力を受けたりといった日々を想像していたが、意外と自由な生活だった。


もちろん家には帰れないし携帯は取り上げられ、誰とも連絡は取れない。
この新築のにおいがする家からは一歩も出られない。

しかし手足は縛られてもいないし、暴力だってふるってこない。
ご飯は3食きっちり出してくれるし、お風呂にも入らせてくれる。
テレビだって見ても良い。


私って、本当に誘拐されたんだよね?
そんなことさえわからなくなる程に快適だった。

「おい、昼飯だ」

私の目の前に何個かのパンが置かれる。
お昼はメロンパンとあんパンのようだ。

誘拐されてから2日。
だいたい食事で出されるのはパンやインスタント拉麺だ。

黒田が買い物に出掛けている気配もないし、買いだめでもしているのだろう。
出掛けている間に私が逃げないように監視をしているのか。

「なんだよ、食べないのか」

彼はパンを頬張りながら私に問いかける。

「いえ、もちろん食べます」

私たちは何も会話がないまま、パンを頬張り続けた。
部屋にはテレビに出ているアナウンサーの声だけが流れている。

それにしても私が誘拐されて2日が経つというのに、テレビではそんな報道は1つもなかった。
やはり私が堂園一茂の隠し子だということが影響して、報道規制がかかっているのか?
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