メトロの中は、近過ぎです!
衣擦れの音に振り向くと、大野さんも起きていた。

「悪かったな、付き合わせて…」

低く呟かれたその声には、黙って首を横に振って答えるしかなかった。

ゆっくりと近づいてくる足音。
その音に背を向けるように窓の方へ向き直ると、横で止まった足音が、微かな熱を発して私の意識を掠め取る。

窓の外の大通りまでもが静かで、この世界に二人しかいないような感覚になる。

「これを成功させたいんだ」

微かに漏れ出たその声に振り仰ぐと、大野さんは窓のすぐ下、1階の何もない展示場を見ている。

黙って展示場を見渡すその目は、未来のこの場所を見ているんだってことが分かった。

もう大野さんは私を見ていない。

「一緒に、手伝ってほしい」

その声に確信した。
彼が今、一番大事なのは仕事なんだって……

何が彼をそうさせるのか分からないけど、だとしたら、
私にできることは一つ…

「はい」

未来のないこの気持ちに蓋をするように、ニッコリと微笑んで答えた。

「成功させましょうーーー」
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