メトロの中は、近過ぎです!
「佐々木。そんなんで通じると思ってんの?」
「そうですよ。知ってるんですよ。あの時鶴見には末岡さんもいたんですよね?」
「でも病院に付いていったのは大野でしょ?」
「普通は彼氏の方が付いていきますよね?」
「その後も大野がずっと付いてたし…会社には責任は自分にあるって言ってたみたいだし…」
「その前は二人で出張でしたよね?」

チーフと沙也香ちゃんが恐ろしいくらい良いテンポで聞いてくる。
練習でもしてきた?と疑うくらい息が合っていた。

「これは何かあると思うでしょう?」

最後にチーフの綺麗に整えられた指先が、私に向けられた。
これは本当のことを言うしかないらしい。

「末岡さんと別れ話してたんです。それでうっかり足を踏み外して…だから大野さんは関係ないんです」
「そんな訳ないでしょ?関係なかったらなんで別れるの?」
「二人を信じてここだけの話していいですか?」

二人は神妙に頷く。

「私が大野さんに惹かれたのは本当です。でも大野さんには婚約者がいるんです」
「えっ…」
「だから秘密でお願いします」

二人は目を合わせて驚いている。
その様子が可笑しかった。

「佐々木。元気出してね」
「また来ます」

そんな衝撃的な告白があった後には、他のどんな話もできなくなったようで、二人は仕事に戻って行った。

そんな二人が羨ましい。
私も早く仕事がしたい。

焦るけどここは病室、パソコンも持ち込んでない。

何をしたらいいのかしばらく考えて、まずは落ちた体力の回復を頑張ることにした。
病室と売店の往復はそれからの私の日課になった。

それでもやっぱりふとした時に大野さんを思い出してしまう。
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