メトロの中は、近過ぎです!
そっと資料の後ろからガラス張りのミーティングルームを覗くと、頭を下げている辰五郎さんが見える。
何度も何度も頭を下げているけれど、伊藤チーフはそんな辰五郎さんに背中を向けて立っている。

なんて言うか、この光景は…

浮気したことを謝っているおじさんと、
絶対許しませんからね!って言ってる…愛人?

そんなストーリーが思い浮かぶんだけど。

「あ~あ。あれ、おまえのせいだぞ」

いつの間にか戻ってきていた大野課代が、私の後ろからミーティングルームを見ている。

「なんで私のせいなんですか?」

フッと意地悪な笑みを浮かべた課代はまだミーティングルームを見ている。

ふいに伊藤チーフと辰五郎さんがこっちを見た。

チーフは辰五郎さんに向き直って、こっちを指さしている。

「俺呼ばれそう。逃げようかな」

何を言ってるんだろうこの人は……

まさか浮気していたのは伊藤チーフの方で、相手が大野課代?

さっぱり訳がわからない。

「なんで私のせいなんですか?」

「この前吉野設計さんに行った時に、伊藤さんが俺狙いって言ったのお前だろう?」

「はい。言いましたけど」

「だからもめてんじゃないのか?」

「え~?!ってことは、チーフは本当に辰五郎さんの愛人ってことですか?」

「は?そっちじゃないだろう…」

どっちですか?
って聞こうとしたら、入口のドアに立っている人に呼ばれた。

イケメン優さんだ。

「親父来てない?」

「いらっしゃってます。こちらです」

案内していく途中で、大野課代にぺこりと頭を下げる優さん。

ミーティングルームをノックして優さんを通すと、チーフが眼に涙を溜めていた。

ドキリとした。

チーフのそんな顔、初めて見た。
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