メトロの中は、近過ぎです!
その日の集中力は半端なかった。

今日だけは絶対残業できない。
万が一、今日行けませんなんてことになったら、次はないってことだけは分かる。
最初で最後のチャンス。

その想いだけで、次から次へと資料を片付けていった。

「張り切ってるな~。デートか?」
そんな松尾課長の声もスルーして、黙々とパソコンに向かう。

外回りから帰ってきた伊藤チーフも、
「やっと仕事に生きる女になったわね」
嬉しそうにコーヒーを淹れてくれた。

チラチラ確認していたスマホが鳴ったのは15時過ぎ

『日本橋高島屋前19時。来られる?』

それだけのシンプルなLINE。

ガンと音が出るくらい勢いよく立ち上がり、オフィスを出て、駆け足気味に屋上へ向かった。
ドキドキうるさい私の心臓。
握りしめてるスマホが大きく感じる。

風の強い日だった。
でもその風さえも私の背中を押している気がする。

落ち着け私…

ただ単に食事に誘われただけで、深い意味はないのかもしれない。
倒れた時のお礼をさせてくださいと言ったのは私だし、それでも十分素敵な時間だと思う。

でも、もし、それ以上を求められたら?

遊びなのかもしれない。
今日ベッドインして、それで終わりってこともあり得る。

でも、新しい恋かも…
失恋の痛みも忘れてきてて、仕事だって充実してる。
今、私に足りないのは恋だって思う。
恋愛のドキドキに振り回されたいって思う。

50%、いや60%の期待と、残りの40%の覚悟を決めて、もう一度スマホを見た。
< 70 / 309 >

この作品をシェア

pagetop