メトロの中は、近過ぎです!
緊張の中 食事が終わると、二人で散歩することにした。
一本路地を入ったオフィス街には、人影はほとんどなくて、末岡さんの足音がよく聞こえる。

すっと腕を出されて自然に腕を組んだ。まるで腕を組んで歩くのが当然といった雰囲気。

「ちょっと寒いですね」
「寒い?どこか入る?」
「いえ、このままで大丈夫です」

見つめあって微笑んだ。
まるで恋人同士のように…

ビルの谷間を吹く風が私の髪を揺らしていく。

「マホって呼んでいい?」

見上げると薄い唇が微かに色付いてて、その唇から漏れた私の名前はとてもオシャレなもののように聞こえる。

こくりとうなづく。

「じゃ、俺も下の名前で呼んで」
「しんじさん?」
「うん」
「シンさん」
「ん?」
「そっちがしっくりきます」

クスクスとシンさんが笑う。

風が気持ちよかった。

「マホ」
「はい」

シンさんが歩みを止めた。

「俺と付き合って」

シンさんが腕をほどいて私の肩を両手で掴んだ。

え?
ちょっと待って。
今、付き合って…って言った?

風の音と重なって聞き間違いかと思ったけど、背中に腕を回されて抱きしめられてる。

耳元で「いや?」なんて言われると、心臓が暴れ過ぎていて上手く言葉が出てこない。

確かにそうなったらいいなとは思っていたけど……まさか本当にそうなるなんて

「私なんかでいいんですか?」

からかわれてるのかも。
だってさっき不釣り合いさを痛感したばかり。

「マホがいい」

優雅な細くて長い指が私の顎をすくい、上を向かされた。目の前には薄い唇。

ゆっくり近づくシンさんに一歩引いてしまうと、背中に回った腕に力が入れられた。

見惚れるくらい整った顔が、鼻が触れそうなくらい近くにある。

もう目を閉じるしかない。

唇に柔らかい感触を感じた。
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