メトロの中は、近過ぎです!
「ちょっと確認してみます」

そう言って伊藤チーフが電話をかけている。

「戸田。下の在庫はどうだ?」

南主任が銀縁眼鏡をあげて聞いてきた。

「一か所にまとめましたが、合計で200くらいですね。本社の在庫には手をつけないんですか?」

戸田君の質問に南主任が腕時計をちらりと見た。

「まだ早い」

何が早いと言うんだろう。
良くない企みがあるとしか思えない。

電話を終えて戻ってきた伊藤チーフ、

「やっぱりそうです。あの在庫、浜松工場ですよ」
「そうか。浜松なら今から取りにいけないこともないか…」

南主任が額に手を当てて考えてる横で、伊藤チーフがサンプル帳をまとめながらそれに答えた。

「私が取りに行きます」
「伊藤さん。それは危険だ。途中で事故でも起きたら元も子もない」
「でも私が行かなければ主任が行くと言うんでしょう?それはダメですよ。主任はここで陣頭指揮を執ってください。浜松工場の工場長なら面識があるのでなんとか手伝ってもらいます」

そのやりとりを遠巻きに見ていた大野さんが主任に近づいた。

「俺が行きます」

その顔は今まで見たことがない、強い意志がある顔。

「でも、大野さんは…」

南主任が言おうとしたのは、おそらく大野建設からの預かり者だから、という意味だろうけど…
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