メトロの中は、近過ぎです!
「そんなくだらないこと言うなら、あとは戸田一人でやれ。俺は上を手伝う。行くぞ佐々木」

そう言うと大野さんはさっさとスーツを掴んで出て行った。

「えー。大野さん。マジっすか」

置いてけぼりされたのに戸田君はニヤニヤ笑っている。

「あの、じゃ。上で待ってるね」

こんな雰囲気を取り繕うことなんてできないから、私も大野さんの後を追った。

「良かったんですか?」

大野さんと二人きりのエレベーターの中で、一応聞いてみた。

「あー。あと二箱くらいだからな」

そう言って大野さんはニヤリと笑っている。

楽しそうで良かった。
他は知らないけど、3課のこの団結力、私は良いと思う。
大野さんも馴染んでくれたら、もう3課を否定することはないんじゃないだろうか。

大野さんがハンカチで汗を拭う。
二人きりのエレベーターはお互い何も話さずあっという間に3階に着いた。

私達がオフィスに戻ってからそう時間はかからずに、口を尖らせながら戸田君も戻ってきた。
オフィスではみんなが南主任のデスクに集まっていた。

「じゃあそれは浜松工場なんだな」
「おそらくそうだと思います」

主任とチーフが古いサンプル帳を指差している。

「どうしたの?」

近くにいた沙也香ちゃんに聞くと、

「今は廃盤になっているウッドシリーズの在庫がどこかにあるはずだとチーフが思いだして…」

そういえば聞いたことがある。

デザインはいいけどその時代に合わなくて、たくさんの在庫を抱えたまま廃盤になった商品だ。
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