侯爵様のユウウツ 成金令嬢(←たまに毒舌)は秀麗伯爵がお好き?
「独立なんて嫌です」

犬だって三日飼えば情が移って手放せなくなるのに……、あんまりです。

胸の奥で燻ぶっている火種が、一気にメラメラ燃え上がります。


「不安がることはない。新会社の立ち上げはサポートするし、うちがお前の所から『ルイーズ銃』もアクセサリーも仕入れる形になるから、お前さんは大金を稼げる。おっと貴族のお嬢さんに、金の話なんてげひ」

「誰がお金持ちになりたいなんて言いました? それに私はもうお嬢さんじゃありません!」

洟をすすりながら涙声で遮ると、ビックリした顔で絶句するルーカス様。

仕事ではどんなに辛くても悔しくても、涙を見せたことはありませんでしたから。

「『死んで花実が咲くのなら、墓場はいつでも花盛りよ。生きていればこそ綺麗な花が咲く、早まっちゃいけねぇ』後に続く言葉も全部覚えています。エセルの披露宴で社長が、いいえ貴方が私にかけてくれた言葉が、どれほど心に沁みたか分かりますか?」

胸にしまっておいたことを、こんな風にさらけ出すのは初めてです。
でも、悲しくて止まれません。

ルーカス様は私の言葉の意図が全く分からないようで、いつもの強気はどこへやら、眉尻を少し下げ、探るような困ったような表情をしています。

「あの時俺は、大したことはなんにも言ってねぇ。お前さんは何か勘ちが」

困惑を滲ませながら語るルーカス様の言葉を、いいえ、と強くバッサリ遮って、

「勘違いなものですか。あなたの言葉は、私の周りを取り囲んでいた頑丈で窮屈な檻を、一瞬で粉々に打ち砕いたのです」

「いや、だが……」

「あの時私は、貴方にどんな酷い言葉を浴びせられてもおかしくなかった。体面を重んじる貴族達なら、間違いなくそうしたでしょう。大切な娘の披露宴を台無しにしかけたのですもの、罵倒されて当たり前です。でも貴方の言葉や眼差しは、包みこむように暖かくて優しくて、真っ直ぐに強くて……」

あの時の光景と感情が溢れ出し、言葉に詰まってしまいました。

あの時、私は本当に死ぬつもりでした。
死んだあとの心残りは、私のせいで両親や妹が醜聞にまみれ恥辱を味わうこと。そしてそんな目にあわせたにも関わらず、私の死に慟哭し、悲しみにくれ喪失感に苛まれるであろうこと。さらにそんな家族が、怒りに震え真っ赤になったあなたに詰め寄られ、聞くに耐えない言葉で罵られ、法外な賠償金を要求されるであろうことでした。

貴方のことだから必ずそうすると、そういう人だと侮蔑混じりに決めつけていました。

それでもあの時の私は、止まれなかった。
何としてもあの男に復讐したかった。
たとえ罵倒されようとも。

だけど貴方は……。

「あの時貴方の言葉を聞きながら、自分の愚かさや傲慢さが、恥ずかしくてなりませんでした。それと同時に全く別の何かが、胸の奥からじんわりと湧いているのも感じていました。自分でも気づいていませんでしたが、あの時私は貴方に恋をしたんです」

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