侯爵様のユウウツ 成金令嬢(←たまに毒舌)は秀麗伯爵がお好き?
馬術障害物レース前

レイモンドsaido1

あれからメイヤー殿を訪ねたおり、ついでを装ってエセルに挨拶しようと使用人に呼びに行かせたが、風邪をこじらせた弟を看病中で忙しいからと、あっさり断られてしまった。

ま、まあ看病なら仕方ないか……と、その十日後にメイヤー殿を通してオペラに誘ったが、翌朝彼から断りの電話が掛かって来た。

『あいにく別の予定が入っているので、お断りさせて頂くそうです……』

え゛っ!? メイヤー殿、なんでそんなにお気軽簡単に断れるんだ? 
それじゃあ、あなたを通して申し入れた意味が無いだろー!! 

エセルの意見なんか聞かずに
『予定があっても無くても、侯爵様を最優先しろっ!』
って暴君の本領を発揮してくれよ! 

ったく、娘の意思を尊重する物分かりの良い父親に成り下がってどうするんだよ!
見損なったぞ、ああああ、もうっ!!



更に十日後 ノーティア伯爵主催 馬術障害物レース 競技場内 休憩用テント 

結局一ケ月近く僕はエセルに会えていない。

こうしている今も頭の中は彼女の事でいっぱいで、『エセル病』は日に日に重篤になっている。

まあ、僕が彼女に色々無体をはたらいたのは認めるが、僕の事を誤解している面も多々あると思う。
一体僕はこの先どうしたら良いんだ?
 
頭を掻きむしりそうになった時、「レイモンド様~」と猫なで声を出しながら、香水の香りと共に現れた令嬢達。一、二、三…… うわっ八人もいる。

メンタル的には相手をしたく無い筈なのに、表情筋と喉が勝手に反応して、
「皆さん、ごきげんよう」

「レイモンド様が出場なさるなんて、来た甲斐がありましたわ」

「「「本当ですわね、ほほほ」」」

「レイモンド様は馬術の名手ですもの、今日は優勝候補筆頭ですわね。応援しますわ!」

「「「わたくしも、応援します」」」
揃ってうっとり

「ははは、美しい皆さんの前で失敗は出来ませんね」

その後も、ほほほ、ははは……と不毛な会話が続いたが、ある瞬間、僕の心臓は破裂しそうなほど強く鼓動を刻み始めた。

禁断症状による幻覚か? 
何でエセルがあいつ(ルース伯爵)にエスコートされて来てるんだ!? 

しかも僕には見せた事が無いような、眩しいくらいキラキラした笑顔を、惜しげも無く振り撒いている。

ルースおまえっ、エセルの耳に唇寄せて囁くな!!

エセル、笑うな!
お願いだからそんな幸せそうな顔しないでくれ……

おっと目が合った。一瞬期待に胸が高鳴る。
僕は咄嗟に微笑んだが、な、なんだよ、つーんと顔を背けやがった。

グサッ、グサ、グサ、見えない包丁が胸に頭に突き刺さる。

エセル……エセル……
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