侯爵様のユウウツ 成金令嬢(←たまに毒舌)は秀麗伯爵がお好き?
父の言葉は、レイモンド様にとっても私にとっても奇襲攻撃そのものでした。

え、何て? 
……いえ、ちゃんと聞こえてましたけれど、どさくさに紛れて、なに砲弾撃ち込んでるんですか、お父様!!
痛い目見たら懲りないと、学習しないとダメでしょう!? 

ここはどう考えたって勇気ある撤退なのに突撃せよって、そんな命令絶対イヤだからーーーっ!!
心の中で叫びつつ、私は魔法にかけられたように固まりました。
ただ心臓だけは、あばらからはみ出しそうなほど激しく乱舞し続けています。
このままだと絶対心臓持ちませんからっ!

そんな私の目の前で、レイモンド様は「今なんと?」と、凍えそうなほど冷たぁい声を出されました。目を眇めつつ、全身からどす黒く渦巻く不快のオーラを漂わせていらっしゃいます。

「聞こえませんでしたか? ここにいるエセルを侯爵様の花嫁にと申し上げたんですよ。その代り持参金だと思って、借金も宝石代もチャラにして差し上げますから」

父は平然と言ってのけ、黒い笑顔でにっこりしました。

そう言えば帰りの車の中、最初は渋い顔をしていたのに「転んでもタダじゃ起きねぇ……」とか何とかぶつぶつ呟きながら、楽しそうにふぇっふぇっふぇ……と笑っていたのは、この事だったんですね!  

盗み見るようにそっとレイモンド様を視界に入れると、黙ったまま父を睨みつけるサファイヤの瞳には、激しい怒りや侮蔑が宿ったような赤黒い炎が揺れています。
嵐の前の静けさ、これからきっと耳を覆いたくなるような罵倒ロワイヤルの始まりです。

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