侯爵様のユウウツ 成金令嬢(←たまに毒舌)は秀麗伯爵がお好き?

レイモンドsaido

レース開始直後に聞いたエセルの声。

アンディー、アンディー、アンディー、アンディー……
ああああああ、もう聞きたくないっ!!

僕は叫び出したい気持ちを抑え、不機嫌にグローリー(愛馬)の手綱を握った。

二年前国王陛下から賜ったグローリーは、艶やかな青鹿毛の非常に美しい馬で、大きな馬体ながら持久力があり、長距離でも俊足で駆け抜ける。
僕が今まで乗った中で文句なく最高に良い馬だが、同時にプライドが高く気性も荒く、おまけに気まぐれな奴だ。

グローリーは僕の機嫌の悪さを敏感に感じ取ったのか、『ふんっ、従うか!!』とでも言わんばかりに中盤辺りから言う事を聞かなくなった。

水濠はやる気をなくしたかのように立ち止まって、なかなか飛び込もうとせず時間をロス。
まあそれは許せるにしても、簡単にクリア出来るはずの丘から丘への飛越では、障害に辿り着く前に、こいつめ老公爵が乗る牝馬を追いかけて、長い長い迂回ルートへ行きやがった! 
それで僕の順位は大きく後退。

頭の中はルースが何位を走っているかという事でいっぱいだが、先ほど見る限りでは、思った以上にあいつは乗馬が上手かったし、悔しいが中盤までは僕より数頭前を走っていた。

あいつが優勝してしまうかも知れない。
先程のプロポーズとキスシーンが脳裏を掠め、胸に鉛を流し込まれたかのような、どうしようもなく重苦しい気分になる。
あいつにエセルを取られるなんて、死んでもイヤだ!

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