侯爵様のユウウツ 成金令嬢(←たまに毒舌)は秀麗伯爵がお好き?
公爵の牝馬から何とか離れ、最後の難所『崖』に向かう。

ただでさえ険しい崖を登って下りるのは、難しく危険を伴うが、昨日雨が降ったせいで、崖越えはいつもの比では無いほど至難の業となっていた。

乾ききっていない地面に蹄鉄で踏み荒らされた跡が見当たらないところを見ると、恐らく皆、迂回ルートへ行ったのだろう。
確かにここで回避しないのは、自殺行為かも知れない。
でも……

「グローリー、ハムにされたくなかったら……いや、お前だけが頼りなんだ。僕にもお前にも危険な賭けだが、お願いだ力を貸してくれ」

グローリーの耳がピクリと動く。
ほんの少しの間を置いて、愛馬は興奮気味に声を漏らし、前足で嬉しそうにステップを踏み始めた。
そして、高く空中を蹴り雷鳴のように嘶(いなな)くと、黒く艶やかな体をこれでもかとしならせ、力強く斜面を蹴り弾むように崖を駆け上がった。

「ありがとう……。やっぱりお前は最高だっ!」

グローリーは、『未だこれからだ』とでも言うかのように鋭く嘶いて、怯むことなく勇猛に一気に崖を駆け下りた。

愛馬の勢いは止まらず疾風のように草原を駆け抜け、瞬く間に十数頭をごぼう抜きにし、観客席から二百メートルほど離れたところで、ルースが騎乗する葦毛に追いついた。

やはりこいつがトップか……。

僕と目が合ったルースは、ニッと不敵に笑って馬体に鞭を入れ、ラストスパートをかけた。
葦毛のスピードがぐんっと上がり、グローリーが後れを取る。

此処まで来て負けて堪るかっ!! 
グローリー、あと少しだ頑張ってくれ!! 
頼む!!

そして……
< 72 / 153 >

この作品をシェア

pagetop