侯爵様のユウウツ 成金令嬢(←たまに毒舌)は秀麗伯爵がお好き?
ポカンと口を開けて呆けた顔をしている私に、苦笑しながら肩をすくめるレイモンド様。

「驚いたかい? もともと自由気ままな人なんだ」

「ええ、ほんの少し」

ホントはもの凄ぉく。

「母は、プライドだけはスリーエルの貧乏公爵家の長女で、密かに出入りの商人と駆け落ちの約束までしてたらしいけど、計画を邪魔されて、我が家に売られるように嫁いで来たんだ。夫となった父とはソリが合わなかったけど、どうやって作ったのか子供は三人も生まれて、まったくコントみたいだろう?」

レイモンド様は、はははと声を出して笑っていますが、何だかお寂しそうです。

「母は、あの通り髪も瞳も黒だけど、生まれた子供は三人とも父親譲りの金髪青眼、顔かたちも父親そっくりだったから、愛せなかったみたいだ。東洋の諺で『坊主憎けりゃ袈裟まで憎い』って言うだろう? あれに近いね。憎まれはしなかったけど、とにかく僕らに無関心だった」

レイモンド様の纏った空気が、どんどん淀みを増し沈んでいくのが分かります。

「子供の頃、母のバースデープレゼントにする為に、一生懸命ピンクのチューリップを育てて、当日花束にして渡したんだ。母の喜ぶ顔が見たくて、優しい言葉をかけて欲しくて、ワクワクドキドキだったよ」

そう懐かしそうに話す瞳には、寂しさが浮かんでいます。

「でも……、たいして嬉しそうな顔もせずに『有り難う』って一言だけだった。最悪なのはその後で、『まあ素敵』って横で言った侍女に『じゃ、あげるわ』って、さすがにあれは悲しかったなぁ」

私の目には、皮肉っぽく微笑むレイモンド様を通して、込み上げて来る涙を我慢しながら独りぼっちで佇(たたず)んでいる、幼き日のレイモンド君が見えたような気がしました。

きゅーーーん

私は咄嗟にすくっと立って、レイモンド様が座っていらっしゃる長椅子へ行き、隣に座って彼の手にそっと手を重ねました。

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