侯爵様のユウウツ 成金令嬢(←たまに毒舌)は秀麗伯爵がお好き?
私が立ち上がった時から、何が起きたか分からないといった表情のレイモンド様は、小さな声でたどたどしく「エセ…ル……?」と。

「『理由はどうあれ縁あって夫婦になった』と、さっきおっしゃいましたよね? わたくしにも非があったわけですし、結婚までの事は全て水に流しますから、この子と3人、笑い声の絶えない温かい家庭を築きましょう? ね、侯爵様……」

ものすごいこと(バーバラ様の襲来)を経験してしまうと、それまでの小競り合いなど、どうでも良くなるものです。

レイモンド様の纏っていた雨雲は、さあっと吹き飛び、代わりに木漏れ日の様な笑顔が戻って来ました。

少年のように穢れない瞳で私の顔を見つめながら「うん、うん……そうだね……エセル」と、嬉しそうに微笑むレイモンド様。

何だかすごく可愛いかも、ふふふ……ってあらやだ私……。

「犬だな」
とリードマンがぽそり。

うっ、油断した隙に抱きしめられました! 
ギュって、ギューーーって!
耳にキスされた。あ、また。

「エセル、どうしてもって言うなら、唇にもキスしてやるけど……?」

くすぐったいから耳に唇つけて囁かないで! 耳舐めないでー!

「キスもハグもしてくれなくて結構ですから、離して下さい!!」

なのにまたギュって、それに唇にもチュッチュってした。  

リードマンが咳払いして苦笑しながら、
「旦那様、奥様、お熱い抱擁の最中に無粋とは存じますが、そろそろお召し替えのお時間でございます」と。

お熱くないが暑苦しい! 
ええい、離れろレイモンドーっ!!!
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