妄想は甘くない
……このイケメン、確か見たことがある。
整った顔と曖昧に視線を交わらせつつ、朧気な記憶を辿っていると、先日の食堂で色めき立っていた女子社員達が思い起こされ、ピンと閃く。
そうだ、春に本社へ異動して来たっていう……“営業部の王子様”だ。
土曜出勤は部署によりその強制力は大きく異なる。
締め日と重なっている顧客管理部と違い、営業部の人はちらほらとしか出社していないだろう、こんなタイミングで王子様にお目に掛れるとは。
更に下階の地下街で、昼食を取って来た後だろうか。
脳内を巡らせていると足元で、ぱしゃっと水音の跳ねる気配がした。
余程見とれていたのか、ぼんやりした頭が我に返り青ざめた。
あろうことか王子様のスラックスに、わたしの手にしているコンビニの袋から雨水が滴っているではないか。