妄想は甘くない
しかしあんな風に顔を合わせて、じっと見つめられてしまったのでは、日々の観察もやりにくいというものである。
週明け、久しぶりに食堂で彼を目にしたものの、いつもの様に遠慮なく不躾な視線を送ることは躊躇われた。
何でもない振りをして、わざとらしくテーブルの弁当の位置を調整してみたり、列に並ぶ近藤を探す素振りを漂わせてみたりした。
彼と知り合いになってしまった以上、何かの弾みで目が合ってしまったりするかもしれない。こちらが見ているのだから。
──大城さんとの関係は誰にも秘密。
そんなことなど知る由もない皆に悟られないよう、普段通りの態度を心掛け、封筒を手渡した。
『こんな所まで来て頂いてすみません! こちらです』
『このまま外出するんで大丈夫です。さすが、仕事が早いですね。助かります』
請求書を受け取った彼が、あどけない笑顔を見せてくれた。
色っぽくわたしに迫って来た時と違い、爽やかに白い歯を見せている。
この彼がまさかあんな一面を見せるなんて……あの甘いキスを思い出しただけで、赤面してしまいそうな自分を必死で抑えた。
しかし押し込もうとする程に、触れられた鎖骨や腕の感覚が戻ってきそうで、ぞくぞくしてしまう──