妄想は甘くない

我ながら口にした台詞にたじろいで、早鐘を打っていた鼓動が更に加速する。
眼前の人の目も見開かれていたが、すぐに細められ口元が僅かに歪んだ。

「……迂闊だな、自らそんなこと言うなんて」
「えっ……」

彼の呟きを耳に入れた途端、ボリュームを上げた心音が余りにうるさくて、握った手に汗が沁み出しやしないかと気が気でなかった。
途端、頭の奥でチカチカと点っている光が警告を知らせて来て、逃げなきゃいけないと思い出す。

「宇佐美さんが欲しがってくれるのを待つつもりだったけど、早かったですね。自分から飛び込んで来てくれるなんて」
「! ……」

呆気に取られている隙に、取り出したチョコレートを口へと押し込まれてしまう。
むせ返りそうな甘ったるい香りが舌の上いっぱいに広がり鼻へ抜け、間近に寄せられた眼力と目に入った指先に、くらくらと目眩を起こしそうな程だった。

「欲しかったのは、これ?」
「……」

「満足? これで?」

不敵に浮かべた笑顔から滲み出ている毒を感じながらも、強烈に惹かれる心を止められずに、足が一歩前へ出る。
まさか自分の口からこんな言葉が飛び出すなんて、思いもよらなかった。

「……大神さんのせいです。こんなのじゃ満足出来ません」

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