妄想は甘くない

「……ん~~……でも、スカッとしなかった?」
「……した……」

ふっと微かに忍び笑いを漏らすと、ふわりと柔らかく両手で抱えるようにわたしの顔を覗き込む。
その面立ちは穏やかで、親指がゆっくりと目元の雫を拭った。
怖々瞳を合わせながら、彼の台詞を脳内で繰り返した。

『“大神”になるんで、覚えておいて貰えます?』

……この人、自分の言ったことの意味わかっているんだろうか。どういうつもりなんだろう。何も考えていないの?

彼の戦略に引っ掛かってしまったのは他でもないわたしで、キザな台詞を蘇らせて赤面した顔が恥ずかしく、唇を押し結んで目線を外した。
あんなことを言われて意識しない女子が居るとでも思っているのかと苦言を呈してやりたかったが、実際に口に出す程には強く反発出来なかった。

「だろ? 文句言ってるけど、本音でしょ、それが」
「…………」

……もしかしてこの人の不可解な言動の数々は、わたしの本音を引き出す為?
敢えて不遜な態度を取っているのではと、訝しく見上げた整った顔は、やはり動じることなく面白そうにほくそ笑んだ。

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