軍人皇帝はけがれなき聖女を甘く攫う


「きゃっ」


 床に転がり、痛みを堪えながらよろよろと上半身を起こすと、フェンリルは踵を返すところだった。


「近々、礼拝を行います。それまで、ここから出ることを禁じます」


 こちらは一度も振り返らずに、淡々と告げる。


 前にここで暮らしていたときは、神殿内のみ自由があった。けれど、今回は今までとは対偶が全く違う。


(こんなの、監禁と同じじゃない)


 ふたたび湧いてきた怒り。その矛先を向けたい相手は、バタンッと閉まる扉の向こうに消えてしまう。


 途端に心細くなり、サファイアの瞳を潤ませると我慢できずに涙をこぼした。


「会いたい……レイヴンに会いたい」


(もう一度、あの逞しい胸に抱かれたい。そうすれば、安心できると思うから)


 ただあの人と一緒に笑い合い、言葉を交わす。食事のとき、眠るとき、目覚めるときも、どこまでも共に生きられればそれだけでいい。


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