好きでいいかも……
ジョンは、プルーから上がると、タオルで体を拭きながら、スマホを耳に当てた……


 聞こえる単語から、急な仕事だと言うことはなんとなく分かった。


「ごめん、カイト…… パパ、どうしても仕事に行かなきゃならなくなった。悪いが、家に、ベビーシッター呼ぶから待っていてくれるか?」

 ジョンは、すまなそうに、水の中から顔をひょっこり出しているカイトに言った。


「えー。嫌だよ。僕ここにいる!」


「そうは、いかないだろ? また、連れて来てやるから……」


 彼がなだめても、カイトはプールから出ようとしない。

 彼の様子から、急いでいるのが分かる。


「あの…… お時間かかるんですか?」


「いや…… 一時間くらいで、片付くとは思うが……」


「なら、私でよければ、カイト君、見ていますけど……」


「いや、そんな、ご迷惑かけるわけには……」


「やった―。パパ、バイバイ」


 カイトはそう言い残して、プールの底に潜って行ってしまった。


「全くっ」

 ジョンは、顔を顰めてプールの底へ目をやった。


「私、特に予定も無いし…… 話し相手が欲しかったから、丁度良かったです」


「でも……」

 そう言いながらも、ジョンは時計に目をやる。


「急いで下さい。お仕事なんですよね」


「すみません」

 ジョンは、申し訳なさそうに言うと、軽く私にハグをして走り去った。


 ジョンにふれられた触れた肩が、暖かい手の余韻を残して消えない。


 ハグなんて、オーストラリアでは当たり前の事なのだから、気にする事は無いと思いながらも、着替えを済ませたジョンが、車に乗り込む姿を目で追っていた。
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