鬼の生き様


 歳三の読みもあたり、興行収入は相当であった。

二百二十五両もの大金が、門弟や商家などから集まったのである。
百七十両を経費とし、周斎は五十両、勇は五両受け取った。

「さてさて、お疲れさん会でもしようか。
暮れ六つに府中宿の楼閣を取っておいてくれないか」

周斎はそう言うと、門弟の一人が宿を取りに急ぎ、準備ができたと報せを受けて一同は楼閣へと向かった。

 飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎは朝まで続いたのである。

「いよっ、近藤勇先生!
四代目襲名おめでとうございます!」

左之助は祭りの趣旨を漸く永倉から聞き、酒を徳利ごと浴びるように呑んでいた。

「俺ァ、あんたの事が気に入ったよ。
近藤さんよぉ」

へべれけ状態の左之助を、源三郎は窘めようとするが、それを勇は止めていた。

「聞いたぜ、新八も土方も山南さんも、みーんな食客なんだってなァ」

「まぁ、そういうところです」

「決めた!俺ァ試衛館の食客になる」

歳三はやれやれと思い、呆れ顔を浮かべながらいよいよ左之助を止めに入った。

「さすがにお前が食客になるにゃ早いぜ。
俺達ャ、お前の事をよく知らねえんだ」

うんうん、と源三郎は頷いたが左之助は歳三を振り払った。

「俺だってお前らの事なんか知らねえよ。
でもさ、みんなの顔見りゃ分かる。
みんな近藤さん、あんたに惚れている。
そんなあんたに興味を持った」

その目は先ほどの酔っ払いのうつろな瞳ではなく、大真面目な眼差しで勇を射抜いた。
酔っ払いの戯言ではまるでないのだ。

「平助ェ、お前もそうだろ?
あんたも実は北辰一刀流の道場よりも、試衛館の先生の方に惚れちまってんだろう?」

平助の肩を抱き寄せ左之助はそう言った。
否定は出来なかった。
現に平助も試衛館の居心地のよさ、そして殺伐としておらず、和気藹々と仲の良い食客に魅入られる事があったのだ。

「そんな訳で本日より、天然理心流試衛館にお世話になる原田左之助と藤堂平助の両人!
よろしくお願いします!」

左之助はそう言い高らかに笑った。
無茶苦茶な奴だな、そう歳三は思ったが勇は人を見る才覚がある。
勇は何も言わずに頷いた。

「よろしくな左之助。平助」

(この人の懐の厚さには勝てねえや)

歳三は苦手な酒をクイッと呑むと、旨いと思った。

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