鬼の生き様


 総司らしい考えだ、と歳三は思った。
歳三も総司の言う通り、政治的な事よりも、武士になれればそれでよかった。
そして無二の親友である近藤勇を日本で一番の大名に祭り上げたいという気持ちのほうが強かった。


「我等は同志だ。
確かに尊皇攘夷だの勤皇だの様々な考えの者がいる。
もし国家に万一の事があれば、総司の言う通り試衛館の者同士の為に剣を振るおうじゃないか」

そう永倉は刀の目釘に唾をかけて言った。

「一人は皆の為、皆は一人の為。
俺たちは固い結束を結んでいたいものだ」

勇は目を輝かせながら言った。
このような夢物語を語っているときは、講武所の一件やら厭な事を忘れられる。

「温かいお茶、入れてきました。
夜は冷えますのでお身体に差し支えないように」

もう夜半過ぎであったが、談笑している声が聞こえたのか勇の愛妻であるツネは、身重な体ながら茶を淹れて持ってきた。
頭を下げて、それでは。と言い部屋から出て行く。
ツネは気が利きよく動く、器量の良い女である。

お腹は大きくなっていた。

勇との第一子を身籠っているのだ。
そろそろ生まれる頃だろうと、試衛館一同楽しみに待っているのだ。

しこたま呑んだ酒の後に茶を啜ると、あえてぬるく淹れた茶が気管をスッと通っていき飲みやすい。

「そうだ近藤先生。
前から気になっていたんですけど、なんでツネさんと一緒になろうって決めたんですか?」


突然総司が言うものだから、歳三は思わずむせた。


「こら、総司」

源三郎も総司を注意するが、総司は気になって仕方がないという様子で屈託のない笑顔で質問をしている。


「あまりに綺麗だと、お前らの稽古に支障が出るからだ」


そう言う勇の頬は、酒を飲んでもいないにも関わらず赤みを帯びていた。
照れ隠ししちゃって、と一同は笑いながら夜が更けるまで語り合った。

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