鬼の生き様
次第に外が騒がしくなってきた。
浪士達が伝通院に集合し始めたのだろう。
もちろんそこには、歳三や勇率いる試衛館の者達も集まっている。
清河や山岡、佐々木達は旅支度を整えた。
どうも清河の高下駄に目がいってしまうが、清河は何も気にする事なくカランコロンと流暢な音を立てて一同を見渡した。
「試衛館の近藤勇くんは居られるか?」
清河の声が院外に響き渡る。
この前は、境内に入る事が出来なかった為、試衛館一同は早めに出た。
勇は清河に呼ばれていることに気付き、人波を避けながら清河のもとへと向かった。
「清河さん、お呼びでしょうか?
試衛館、近藤勇でござります」
「おぉ、ご無沙汰していますな。
たくましい御姿を拝見出来て嬉しく思いますぞ」
ふと腰元に目がいった。
新調した打刀と脇差を見て、清河はその刀にも褒め称えた。
「尽忠報国の為に京へ行くと伝えたら、我が道場に代々伝わる家宝の虎徹を頂きまして」
勇は照れ臭そうにそう言うと、清河は驚いた。
虎徹といえば大名刀である。
「まさか虎徹をこの目で見られるとは、いやはや江戸の道場も大したものですね」
そうは言っているが、清河の腹の中では(ふん、贋物に決まっている)と嘲笑っていた。
「えぇ、ましてや芋道場などと揶揄されている貧乏道場ですので…」
「興里(おきさと)ですか?」
「いや、きっと贋物です」
きょとんとした表情を浮かべた。
勇はハハハッと豪快に笑いながら言葉を紡いだ。
「真贋なんてどうでも良いのです。
きっとこの虎徹は、私と同じなんです」
「同じとは?」
「百姓が武士になる。
贋物が虎徹になる。
私がこの虎徹を、本物の虎徹にしてみせます」
これには清河も面食らったように驚いた。
近藤勇とは思った以上の人物かもしれない。